ボルダリングの段/級グレードについて考える


Photo by Brett Jordan

ご存知のように世界には様々なクライミンググレードが存在している。国や地域によってデシマルグレード、Vグレード、Fbグレードなど様々だ。さらに、ルートクライミングとボルダリングでは用いるグレードが違うため、さらに複雑化してくる。




日本国内において、ルートクライミング/スポーツクライミングではデシマルグレード(5.10bなど)が採用されているのに対し、ボルダリングでは一般的に段/級グレードが採用されている。これは、やはりクライミング、特にボルダリングが武道の精神に近いということを必然的に物語っていると思う。


もともと段/級グレードは東京の老舗クライミングジムTウォールの草野俊達氏によって提唱されたものという。その後、外岩ボルダリング、開拓の草分け的存在であった室井登喜男氏によって様々な外岩課題のトポ(ボルダー図集/通称黒本)に採用され浸透していったという。


段/級グレードシステムは提案者の方々によると、武道を意識したものというよりも、ソロバンを基本として考案された、外岩用のグレードということらしい。






広くヨーロッパで採用されているFbグレード(フォンテーヌブロー・グレード)の場合、少ない数値(Fb:5aなど)から始まり、難しくなればなるほど数値(Fb:8a)が上がっていく。また数値の後ろにaからcのアルファベットが付いており、さらにグレードが細分化されている(さらにアルファベットの後ろに+をつけることにより6分化)。


Fb:4、5、6、7、8と5つのレベルがあり、その中でさらに6つのレベル、a / a+ / b / b+ / c / c+ があると考えていただけると分かりやすいだろう。7a+が中級クライマーの入り口で、8aが上級クライマーの入り口?という感じだろうか。


ただ、基本として考えることのできるグレードが人によって違い、本来のグレードからかなり差異が生じてしまうという問題を持っている。それが顕著に現れているのが、よく言われるフォンテーヌブローとマジックウッドのグレード差である。ともに
フォンテーヌブロー・グレードを採用しているが、マジックマジックウッドのグレードはフォンテーヌブローのものに比べ、体感的に半グレードから1グレード低いと言われている。


そういった問題に着目し、ある基準点を設けたのが、段/級グレードシステム(ソロバンシステム)ということらしい。その基準点というのはまさしく、1級/初段の壁である。全体のグレードシステムのほぼ中心に基準点が設けられることにより、いつでも初心に戻って、グレードを確認することができるという画期的なシステムなのである。


下記、ソロバンの布数法。

勝手ながら、ここにボルダリングのグレード、段/級システムを当てはめてみる。こんな感じだろうか?基準点の1級をそろばんの布数法の4にするか5にするか悩ましいところだが、段/級のグレード変化を考えると5が初段となるのが自然ではないだろうか。





この基準点を設けた日本独自のグレード。特に外岩ではその威力を発揮する。外岩に基準点となる課題を設けることにより、その課題からどれくらい難度が高いかを相対的に考えることができるのである。現在のところ、
御嶽の「忍者返し」「エイハブ船長」の2課題が外岩1級の基準点となっている。


さらに、日本古来の武道の精神とも結びつく、素晴らしいグレードシステムだと思う。単にスポーツとしてのクライミングだけでなく、武道として、岩道としての精神を潜在的に合わせ持つシステムである。





では、いったいどのくらいのレベルで中級、上級と呼ぶことができるのだろうか?私の勝手な視点によるが、剣道の階級位性から考えてゆきたい。


剣道の場合、6級から始まり、現在では最高段位が8段となっている。初段試験合格基準は「剣道の基本を修習し、技倆良なる者」とされている。中学校で3年間まじめに部活動を行なっていればだいたい取得できる段位となる。剣道などの段試験には、実技だけでなく、筆記試験、形試験などが含まれてくる。有段者には、技術のみでなく、いわば精神的にも剣道の基本を習得する必要がある。


そして、この初段が中級の最初の最初の入口、あるいは入口手前といった感じではないだろうか。段位をもつことにより、初めて、剣の道に差し掛かったと言えるだろう。クライミングでも同じようなことが言えるのではないだろうか?1〜2年ほどで段課題を安定して落とせるようになり、ようやく中級クライマーの仲間入りが出来たかな?といった感じだろう。


剣道で、次に大きな段位の違いが出てくるのは4段である。

4段の試験合格基準は「剣道の基本と応用を修熟し、技倆優良なる者となる。基本だけでなく、応用を取り入れ、臨機応変に対応することが必要となってくる。そして3段資格を受けた後、3年以上修業が必要とされている。借りに初段試験から問題なく2段、3段試験に合格しても、4段試験に合格できるのはもっとも若くて19歳となる。最低でも7年、初段を習得するまでの年数を入れると10年ほどの修業期間が必要となる。

剣道では、この4段が上級者入りの、最初の最初のステップと言えるのではないか。ただ上手いだけではない、ある種、個性のある芯が形成されてこその段位である。ただし、これをそのままボルダリング当てはめると、非常に高レベルなってしまう。というのも現状では最難グレードが6段、剣道に比べて2段分少ないからである。おそらく、3段+あたりが本当の上級者の入口になってくるのではないだろうか?しかし、武道の道は険しい、上級からさらに、その道、岩道を極めるにはまだまだ長い道のりが待ち構えている。


勝手に剣道の段位システムと照らし合せてきたが、剣道とクライミングのグレードシステムの大きな違いがある。剣道には段位試験があり、段位は合格者に与えられたものであり、クライミングのグレードは岩のラインへと与えられたものである。初段の課題を登ったからすぐに有段者かというと、そういうわけではない。あくまで、取り組む課題の指標としてのグレードであり、重要なのは自らの限界に常に真摯に挑戦していく姿勢である。そして、ここに記述したのはあくまで私個人の見解なので、人によって中級・上級の認識はずれてくると思います。


クライミング、特に岩道は、他人と競い合うだけのスポーツではない。自らへと挑み、自らの可能性を拡張してゆく、岩との対話を通した人間形成の道なのである。難易度の高い課題を登れるクライマーが皆優れたクライマーだというわけではなく、身体的にも精神的にも修練に勤めるクライマーが優れたクライマーなのである。そして、私もまたそういったクライマーへとなりたいと考えている一人である。



日本の段/級グレードシステム(ソロバンシステム)が素晴らしい精神的背景をもったグレードである一方、独自のグレードを採用したことによって起こる問題もある。日本のクライミングシーンの情報が海外に非常に伝わりづらいという状況になっているに感じる。YouTubeなどには日本の様々な課題の完登動画が上げられているが、ほとんどが段/級グレードの表記のみで、なかなか海外クライマーには届かないだろう。


これだけ素晴らしい岩場と自然を持つ日本、すでに多くのジム、岩場で行われているが、Fbグレード、Vグレードの並記もより進んでいくと嬉しいものだ。そして多くの海外クライマーにも、日本の課題を挑戦してもらいたい。


このブログでも然るべき機会を持って、段/級グレードの

英語紹介文も書いていきたい。