外岩クライミング8つの基本的な心がけ



クライミングが東京オリンピック2020の追加種目に提案されてから早半年。今、多くのクライマーが抱える期待と不安がある。それは、クライマー人口が爆発的に増えることにより、比較的マイナーなスポーツのクライミングが、より開かれた知名度のあるスポーツになり、それに伴って、クライミングというスポーツに対する理解者が増えるのではないだろうか?という「期待」。と同時に、クライマー人口が増えることにより、外岩でのマナー違反、近隣への迷惑行為により、岩場が閉鎖されてしまう事案が発生するのではないかという「不安」。いままでクライマーコミュニティで築かれてきた「モラル」をいかに多くの人に伝えていけるのかというのが問題である。

これは、いまに始まった問題でなく、近年のクライミングブームにより既に現在進行形で起こっている。それぞれの岩場の決まりごとをいかに周知していくかというのはとても悩ましい問題だ。遠方から来たクライマーが、単に「知らなかった」だけで安易に行ってしまった行為が、地元の人々とクライマーとの間に溝を作り、地元クライマーが長い時間をかけて築いてきた関係性をあっという間に崩してしまうことも起こりかねない。ここでは、各岩場でのルールではなく、その基本となる「外岩クライミング8つの基本的な心がけ」を書いておきたい。

それは決して難しい心がけではなく、すごく簡単なことなのである。ただ、少し心の片隅に置いておいてもらえるだけで、外岩におけるモラル問題は少なくなるのではないかと思う。クライミングの醍醐味はやっぱり外岩。モラルを守って存分に楽しみましょう。



1、日本の森の約6割は私有林という事実

これは、自然の中で遊ぶ時に、最も知っていなくてはならない事実です。自然だから自由に入って、自由に遊んで良いというわけではありません。その森は、個人や企業が所有する私有林(私有地)の可能性があります。いつも行く岩場は、その土地の所有者の好意で一般に開放されていることでしょう

日本の国土の約7割が森林、その6割が私有林、3割が国有林、残りの1割が公有林です。


2、山にはなるべく1人では入らない


たった1mの高さからでも岩に頭を強くぶつければ、致命傷になりかねません。周りに誰かいれば良いですが、もし誰も居なかったら。。。想像するだけでも恐ろしいです。山ではどんな不測の事態が起こるかわかりません、極力同行者を見つけて、1人で山に入ることは避けましょう。

どうしても1人で岩場に行く時は、絶対に誰かに行き先を伝えておきましょう。入山記帳の必要がある岩場であれば、必ず書くようにしましょう。映画「127時間」でも描かれているように、滑落して身動きが取れなくなるというのは、どんな岩場でも簡単に起こりうる事故です。たったこれだけのことで、命が救われることもあるのです。



3、山の天候は変わりやすく、日はすぐ落ちる

山間部では、晴れていたのに突然雨が降りだしたり、霧が出てきたりします。つねに簡単な雨対策、防寒対策をしておきましょう。そして、暗くなってきたなと思ったら、日はあっという間に落ちます。一般的な日没時刻の30分から1時間前には山を降りることをオススメします。

どんなに慣れた岩場、アプローチでも、夜になると驚くほど方向感覚を失います。日が落ち、気温が下がってから、フリクションが良くなってからトライしたいという気持ちもわかりますが、基本的に夜に山に入るものではありません。慣れから来る、そのほんの少しの過信が重大な事故を招きかねません。

「神隠し」に合わないように気をつけましょう。


4、山火事は毎日5件発生し、そのほとんどの原因は火の不始末だということ。

日本では年間で約2000件、毎日5件ほどの山火事が発生しています消防庁統計資料による山火事原因別出火件数では、そのほとんどが火の不始末によるもので、自然発生の火災はほとんどありません。多くの岩場では火の使用が禁止されています。火を使用を考えている場合は、必ずそれぞれの岩場の情報をチェックしましょう。


5、日本には山岳信仰が根付いているということ

日本の各地の山々には山岳信仰が根付いています。神社やお寺が立っていれば、それが信仰の地だということが分かりやすいのですが、特にそういった建物がないのに、地元の人々の間で信仰の地となっている可能性もあります。例えば、道の脇に立つ小さなお地蔵さん、祠(ほこら)、道祖神(どうそしん)とか、「水神」「田の神」「石神」「山の神」とかいった地名や発音の似た場所では、岩場がそういった信仰の地の周辺かもしれません。

すべての人がクライマーに良心的なわけではありません、そういった場所で奇声を発せられたり、クライマーが集まっていることを不快に思っている方々も見えます。例えば、よく行く岩場にお地蔵さんがあるなら、ちょっとお供えをしてみるとかそういった場所/地元の人々への少しの配慮が、クライマーと地元の人々とのより良い関係性を築き上げていきます。


6、少しの食料と水、ライターは必須

タバコも吸わないし、焚き火もしませんが、外岩に行く時には必ずライターを持っていきます。それは、もし万が一の事態に備えてです。遭難してしまい、山の中で一夜過ごさなくてはならなくなった時、暖をとり、動物から身を守るのに役立ちます(緊急時の岩場での焚火は仕方ないでしょう)。また、つねに少し多めの食料、水を持ち歩くように心がけましょう。アプローチがたった10分でも、思い込みや過信によって、遭難する時は簡単に遭難します。また、熱中症や傷の手当にも役立ちます。

日が落ちて帰り道がわからなくなり、仕方なく野営し、朝起きてみたら駐車場の目と鼻の先だったなんとことも起こり得ます。


7、岩は自然が何万年もかけて作り出した彫刻だということ

ゴロンと転がる岩が、いったいどうやってその地に現れたのか?そう考えてみると、その岩場の地質・歴史へと思いを巡らせることができます。そして、岩にある指ポケット、ガバ、カチ、あらゆるホールドが何万年という時間とともに雨風によって作り出され、今ここに現れているということを思い描いてみてください。それは、自然の時間によって作り出された彫刻のようなものです。その自然の形の中に体を寄せ、動きを作り出してゆくことにクライミングの醍醐味があります。

難しいグレードの課題を登りたいからといって、岩を操作(チッピングやグルーイング)し、課題を作り変えたとしたら、それはもう自然の作り出した美しい彫刻ではありません。それは、惨めなエゴに包まれたクライマー、あなた自身の姿の反映となることでしょう。そんなことをしても、あなた自身が強くなったわけではありません。もう一度初心に戻って「本当の強さ」に関して考える必要があります。

これは、自然保護の観点から書いているわけではありません。クライミングによってクライマーが常に挑み続けている相手は「大いなる自然」と、そこに反映された「自らの弱さ」なのです。それを克服する一連のプロセスがクライミングの意義なのでしょう。



8、登らせてもらっているという心がけ

外岩クライミングというのは、さまざまな人の協力があって成り立っています。トポの出ている岩場なら、必ず開拓者の方がいます。岩を掃除し、アクセスし易いように切り開き、さまざまな課題を初登し、ボルトを打ち、トポにまとめるのに費やした時間や労力。その人たちの努力があって、今、私たちはクライミングを楽しむことができます。そして、地元クライマーによって、土地の所有者との交渉、地元の人々からの理解を得、岩場として公開されています。

「今日は、あの課題を落としてやる!」という気合は必要ですが、常にさまざまな人の協力があって「登らせてもらっている」という心がけを忘れないようにしましょう。そして、岩にも感謝の念を忘れないようにしましょう。




以上、岩道が考える「外岩クライミング8つの基本的な心がけ」です。その多くは、安全、危機管理に関するものです。しかし、そこに通じて言えるものは、自然に対する畏敬の念を忘れてはならないということです。そして、自らを過信しないということ。少しの気の緩みが事故を招き、またモラル違反を招きます

8つ目の「登らせてもらっているという心がけ」、感謝の気持ち、これが最も重要なことかと思います。


そして、各岩場のルールを事前にチェックして外岩に出かけるようにしましょう。入山料の居るところや、記帳が必須となっているところもあります。