白石阿島とアレックス・プッチオのクライミングスタイル

白石阿島とアレックス・プッチオといえば、言わずと知れた女性クライマーの二大巨塔。共にアメリカ合衆国出身、そして二人ともとても美しいアスリート。が、二人は全く異なったクライミング・スタイルを持つことでも知られている。

白石阿島は2014年に女性としては史上二人目となるV14を南アフリカ・ロックランズで登り(Golden Shadow/V14)、それに後押しされたかのように、アレックス・プッチオが時を同じくしてロッキーマウンテンでJade/V14を登っている。このJade、白石阿島も2014年に挑んでおり、その際には阿島の父が「この課題は彼女には2年くらい早い」と言っている。身長、リーチの問題なのかもしれない。二年後といえば今年2016年、再挑戦が楽しみだ。

アレックス・プッチオは1989年テキサス出身。13歳でクライミングを始め、2016年現在26歳。美しい容姿には似合わないものすごい上半身の筋肉。そのへんの男性クライマーなんかより全然たくましい。見所はとにかくダイナミックなムーブ。掴めるものはガシガシ掴んで、足は切りまくってゆくようなスタイル。男性のようなそのクライミングスタイルは、コンペで見ていても気持ちが良い。リードクライミングはほどんど行わず、ボルダリング中心の活動をしている。レッドポイントはV14/8B+。ロッキーマウンテンのJade、Wheel of Chaos共に女性として初の再登者である。


Re-Inventing The Wheel from Zerr Productions on Vimeo.


白石阿島は日本人の両親を持つ、アメリカ・ニューヨーク生まれのアメリカ人。6歳からニューヨークはセントラル・パークでクライミングを始め、メキメキと頭角を表す。 2015年のIFSC World Youth Championshipsでは、リード、ボルダリング共に圧倒的な強さで優勝。追随するものを許さない。



そして今年2016年、女性初となるV15を日本で登った!小山田大によって初登された比叡山のスーパープロジェクト、Horizon/V15/8Cを第二登。小山田大は白石阿島の事をこう評している。


「ともかく、アシマちゃんは本当に凄い。簡単に言うと弱点が見当たらない。現在の女子トップとは絶望的な差がある気がする。課題によっては男子のトップよりも強いだろう。天才っているんだということか」

そんな二人の間に圧倒的な差を感じるビデオが今年ニューヨークのジムで開催されたコンペのビデオ。アレックス・プッチオと白石阿島がファイナルで戦っている。スタイル、体格の違いは歴然。ハード、ダイナミックなムーブで観客を楽しませるプッチオに対し、慎重に、テクニカルに攻めてゆく白石阿島。共に同じくらい登れてはいるのだが、私には決定的な差があるように見える。





正直、プッチオ選手の登り方を見ていると、危なげない気がする。ビデオの中でも、いつ怪我をしてもおかしくないような落ち方を何度かしている(実際に彼女は昨年怪我で長期の治療を行っていた)。それに対して阿島選手はまだまだ余裕が見える。これは単にコンペ時のコンディションの問題だけでは無く、クライミングスタイル、そして体格の問題なのだろう。

それにしても、阿島選手の登り方は美しい。動きの中心が上半身ではなく、腰から下にあるため、安定感がある。すべてのムーブが、腰を入れてから、体の芯で支えるように構成されている。プッチオ選手があんなに力を使っていたムーブをいとも簡単にやってのける。このセンスはやはり、舞踏ダンサーである父の血を受け継いでいるのだろうか。どこか地を這いつくばる舞踏のような、西洋のダンスのそれとは違った、独特の身体使いが垣間見える。

実際に白石阿島はクライミングの事を「ダンスのようなもの」と例えている。 いや、もしかしたら彼女の言う「ダンス」とは西洋的なダンスなのではなく「舞踏」のことなのかもしれない。そう考えると、どこか腑に落ちるところがある。舞踏といえば、その時、その場の雰囲気に耳を潜め、重力と共に踊るような印象がある。西洋のダンスが天からの糸によって重力から解放されようとするのに対し、舞踏はむしろ、重力を受け入れ、その中から立ち上がろうとする。これは、重力との戦いであるクライミングと多くの共通点を持つように思う。白石阿島、もしかしたら彼女は岩の上で踊る舞踏ダンサーなのかも知れない。 

せっかくなので、舞踏ダンサーである父:Poppoさんの舞踏の様子を貼っておきたい。こういった美しい身体の動きを日頃から見て育った彼女が、自然と現在の美しいクライミングスタイルに至るのだろう。彼女のクライミングはすでに、スポーツという範疇を超えているのかもしれない。ビレイする金髪のお父さん、只者ではないだろうとは思っていたけど、なるほどこういうことだったのか。




人類史上初となるV16は女性に登ってもらいたいと思うのは私だけだろうか。もうマッチョな登りはやめて、男性には出来ないような華麗なムーブで構成されたV16を見てみたい。 もう15歳、アシマちゃんから阿島さんへと成長する彼女に、そんな可能性すら感じる。様々なメディアの取り上げをプレッシャーに感じずに、とにかく楽しく美しくクライミングを続けてもらいたいものだ。