なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?9つの仮説。その① 前半

photo by Kerem Tapani

クライミングニュースを見ていても、コンペティションを見ていても、異様に日本人クライマーが活躍しているような気がする。これは単に国際舞台だけの話でなく、もっと身近なところで、例えば海外のクライミングジムなんかで登ってみても、日本人のみならず、アジア系のクライマーの基本的なレベルが高いように思える。それは、すでに自国で経験済みのクライマーぐらいしか海外のジムで登っていないから...ということもあるかもしれない。ただ、やはりそれだけでは無い、何かアジア人、日本人特有の線の細さみたいなものが作用しているように思える。これは全くの偏見なのかもしれないが、やはり「何か」ある気がする... ということで、以前から気になっていた「なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?」ということを9つの仮説をもとに考えてみたい。あくまで全て岩道なりの仮説です。なるべく統計的裏付けをもとに書いていますが、あしからず。

過去記事:「日本人選手が熱い!IFSCボルダリングワールドカップの見方」






仮説1:強いクライマーには瘦せ型が多い

まず、これは歴然として言えることではないだろうか?強いクライマーは基本的にかなり瘦せ型の人が多い。確かに、ガチムチ系の強いクライマーもいるが、総体的に見ると、細く、筋張った筋肉を持ったクライマーの割合が多いように思える。基本的には、クライミングとは重力との戦いであり、その為には2つの点が重要になってくる。「① 体脂肪の割合が低いこと」と② 軽く強い筋肉が必要なこと」だ。こう考えると、日本人クライマーには圧倒的に痩せ型、筋張った筋肉の人が多い。強く、軽量化されているのだ。


それはクライマーに限られたことではない。先進各国の人口に対する肥満比率を見てみたい。日本人の肥満比率が3.7パーセントであるのに対し、比較的瘦せ型のイタリア人ですら10.3パーセント、フランスは14.5パーセント、ドイツは23.6パーセント、アメリカに関しては35.3パーセントとなっている。圧倒的に瘦せ型の人が多いことが実証されている。一体、それは何故なのだろうか?


仮説2:食生活の違い

みなさんご存知の通り、日本人は多くの魚介類を食べる。世界第6位の魚消費国と言われている。また、納豆、豆腐、味噌など大豆の加工食品を多く食べることでも知られている。一方で、チーズ、クリーム、ヨーグルトなどの加工食品はヨーロッパなどの国々に対して、消費量が圧倒的に少ない。朝食に数種類のチーズが切り分けて出される家庭なんて、まだ稀なのではないだろうか?

米、豆、魚、野菜が日本人の食生活のかなりの部分を養っているように思える。もちろん、コンビニ弁当や唐揚げ棒みたいなものの消費量も多くなっている現代だが、しかし全体的に見ると、未だにアメリカやカナダの2倍以上の魚を日本人は消費している。概ね、一汁三菜を中心とした日本食はカロリー摂取量、動物性脂肪の少ないヘルシーなものとして認識されている。これらの食生活の違いが、基本的には「小さくて細い日本人」を作り出しているのだと思う。動物性たんぱく質だけでなく、脂質の少ない植物性たんぱく質を多く摂取しているため、筋張った軽くて強い筋肉を作り上げることが可能なのだろう

昭和23年には161cmだった日本人男性の平均身長は、平成19年には+10cmの171cmに達した。これは、欧米式肉類などの動物性たんぱく質摂取量が増えてきたためだと考えられている。



仮説3:生活習慣の違い/股関節の柔らかさ

個人差があることは承知の上だが、臨床学的に、日本人は白人・黒人に比べて柔軟性が高いとされている。ここにも一つ、生活習慣の違いが関わってくる。和式トイレ、正座、体育座り、あぐら、床にしゃがみこむ動作など日本人特有の生活習慣により、特に股関節の柔軟性がすぐれている。この股関節の柔軟性、クライミングにとって、もっとも重要な要素になってくる。クライミングをしていく上で、180度の開脚・股割りができる必要性はないが、膝を曲げた状態での股関節の柔軟性は必要不可欠である。例えばヒールフック、トーフック、手に足、ドロップニーなど、すべて股関節の柔軟性によってそのムーブをスムーズにこなせるか掛かってくる。また、それによって手にかかる力を軽減させることができる。外国人であぐらや正座を出来ない人は多いが、日本人ではかなり少ないのではないだろうか?

しかし、この生活習慣、ある体型的特徴を作り上げる。それが、いわゆるO脚。日本人の実に8割がO脚と言われている。スタイルだけ見ると、西洋人のすらっとまっすぐ伸びた脚に対してどこか引けを感じてしまう。しかし、そんなO脚、クライミングには結構もってこいだったりする。というのも、基本的にクライミングはガニ股のような状態で登ることが多いからだ。そしてヒールフックやハイフット、O脚であるからこそうまく脚を上げられたり、無理な体勢でのヒールフックがきまったりする。


仮説4:指の強さ、あるいは小ささ

これは世界的にも知られている事実。日本人クライマーは指が強い!
1つには、先に書いた「瘦せ型、軽く強い筋肉のクライマー」というものが影響していると思う。軽ければ軽いほど、指先にかかる負担は減り、その分、指の力で登る課題を踏破することができるのである。そして、長身の海外クライマー勢に比べ圧倒的に指のサイズが小さいというのもある。カチ系課題は手が小さければ小さいほど有利である、が、その分スローパーなどには不向きになってしまう。しかし、それだけではない、指の強さが日本人にはあるように思える。

この指の強さ、箸を使う生活習慣が関係しているのではないかと思う。
普段箸を持たない方の手で箸を扱ってみるとわかるが、かなり指の筋肉を使うし、器用に動かさなくてはならない。正直、聞き手と同じように箸を使うのは至難の技だ。あるいは数カ月のトレーニングが必要だ。この感覚、実は箸を使ったことがない外国人の状況のようなものである。もし、両手とも利き手でないのに箸でご飯を食べないといけないとすると...もう指がつってしまいそうである。子供の頃から使い慣れてきたこの「お箸」のおかげで、私たちは少なくとも利き手の指だけは、すでにかなりトレーニングされているのだ。


仮説5:岩場の豊富さ


これも知られたことではあるが、日本には岩場が非常に豊富である。都心からでも1時間ちょっとで岩場にたどり着くことができる。他の都市も車で1時間圏内に岩場がある確率はかなり高いのではないだろうか?一方で、ヨーロッパの国々ではそうもいかない。もちろん、地中海に面した国々やアルプス山脈周辺には豊富な岩場があるが、例えばフランス・ドイツ・オランダ・ベルギーなどの国々は都市から岩場への距離が非常に離れている。ボルダリングのメッカ、フォンテーヌブローはパリから30分ほどだが、他の都市からしてみると3、4時間はざらである。ドイツの首都、ベルリンからは最も近い岩場で2時間30分程度。確かに毎週末登りに行くこともできるが、ちょっとした小旅行だ。京都から名古屋くらいの距離感だろうか。

この日本における岩場の豊富さは、強いクライマーを育てる大きな地盤になっていると思う。ジムにないような小さなフットホールドや、極小カチ、スラブなどいくらでも外岩でトレーニングができるのだ。先にも書いたように、日本人クライマーの指の強さは、これらの岩場の豊富さ、岩の質感から来ているのかもしれない。


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なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?9つの仮説。その② 後半