なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?9つの仮説。その② 後半



前回に引き続き、「なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?9つの仮説。その② 後半」です。



前回の記事
「なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?9つの仮説。その① 前半」






仮説6:ジムのホールドの異様さ

日本のジムは登りづらい。これは海外の幾つかのジムで登ったことのある方は分かるのではないだろうか?その理由は、壁一面の色とりどりのホールドとテープによって課題を指定/設定するシステムにある。確かに、フランスやアメリカでも一般的なこのシステム。だが、単色のホールドによって課題を設定し、壁面をスッキリさせるジムが徐々に増えてきている。というのも、初心者にとっては前者の壁では、あまりに複雑でホールド/ムーブを見つけるのが難しいからだ。日本でも後者のジムが最近は増えてきている。ここで、両者のメリット、デメリットを見てみたい。



「壁一面に付けられた様々な色のホールドにテープでマーキングし課題を設定する方法」
メリット


  • テープの張り替えだけで課題を設定し直せるため、すぐに新課題を作れる
  • お客さんが新課題を設定することができる
  • トレーニング、ウォームアップにもってこい
  • 少ない壁面で多数の課題を設定できる
  • ホールドのセット回数が少なくて済む


デメリット


  • ホールドを見落とす、間違える
  • 他のホールドに接触して怪我をしやすい
  • 長い時間設置されているので、ホールドが汚れる
  • ムーブの見極めが難しい
  • 慣れるまで時間がかかる


「ホールドの色で、壁にゆとりを持たせて課題を設定する方法」


メリット


  • 見た目が綺麗で分かりやすい
  • 他のホールドに接触して怪我をすることが少ない
  • 初心者でも分かりやすい


デメリット



  • 多くの壁面積が必要
  • セットの度に毎回ホールドを取り替えなくてはいけない
  • ホールドが限られているため、同じような課題になってしまう
  • 同じようなホールドで続く課題になってしまいがち
  • お客さんが新課題を設定できない

ここで、最も注目したいのは、後者「ホールドの色で、壁にゆとりを持たせて課題を設定する方法」のデメリット。「ホールドが限られているため、同じような課題になってしまう」「同じようなホールドで続く課題になってしまいがち」というもの。これにより、適応能力の低いジムクライマーを生み出してしまう危険性がある。それに比べ、様ざまな形状の色違いのホールドをテープによってマーキングしてゆく前者の方法では、常に複雑なムーブ、ホールドの掴み方が要求される。これによって、より適応能力の高い、外岩向きのクライミングのトレーニングが可能となっている。要するには、日本のジムに多く見られる様なカラフルなホールドで埋められた壁面はトレーニングに特化された「トレーニング壁」なのである。このジムの壁面の形態が、基本的な日本人クライマーのレベルを引き上げている様に思う。



仮説7:オリンピックに向けて日本代表が強化されている


過去記事:「日本人選手が熱い!IFSCボルダリングワールドカップの見方」

オリンピックの追加種目候補にクライミングが選ばれてから数ヶ月。その実現も近づいてきているだろう。特に、最近の日本人選手の国際コンペ、ワールドカップでの活躍は目をみはるものがある。実はこれ、2011年から数回行われている「ボルダリング日本代表合宿(エリート合宿)」の成果かもしれない。課題セッターとして、フランス・ナショナルルートセッター:トンデ・カティヨ氏を招き、国際コンペ/ワールドカップに向けたムーブのトレーニングや、ルールの細かな確認などが行われている。で、いろいろと探っていたら合宿に参加していた方の興味深いコメントを見つけた。これは気になる、今度「気合術」の記事でも取り上げたい。

トンデがずっとアドバイスしてるのは「呼吸がクライミングの核だ」って事。「呼吸をコントロールせず完登しても、それはただラッキーだっただけ 。「呼吸はメンタルコントロールでもある」 by 渡辺数馬氏(ツイッターより)

オリンピックの正式種目になることも想定されて、きっとクライミングにも追加予算が流れているのだろうと言うことで、ちょっと日本山岳協会の収入の変動を軽く追ってみた。予想通り、収入は少なからず上がってきているようだ。特に、事業収益と受取補助金に顕著な増額が見られた。これによって選手や施設の強化が行われているとしたら嬉しいところだ。そして、決して多くない助成金増額でここまで結果がついてきているとしたらすごい。ひとえに、これは選手とコーチの努力なんだろう。

【日本山岳協会:事業収益】
26年度 1億445万円
27年度 9千97万円
28年度 1億5331万円(特に協賛金で+約5000万)

【日本山岳協会:受取補助金】
26年度 2545万円
27年度 3066万円
28年度 3547万円(特にJOCから+260万円、スポーツ振興基金から+210万円の助成増額)

そして次なる世代の若いクライマーが、オリンピックを目標に頑張り始めている。これはなんと素晴らしいことか、日本がクライミング大国になる日も近いのではないだろうか?
一方で、多くのクライマーがクライミングがスポーツとして人気になることに不安を感じてもいる。それは、外岩でのマナー違反などが増える可能性と、それによる弊害が想定されるためだ。外岩クライミングを楽しむ際には、ぜひ以下の記事に出ている点を気をつけてもらいたい。

関連記事外岩クライミング8つの基本的な心がけ」


仮説8:忍者への憧れ

これは岩道が勝手に、ほとんどの日本人クライマーは少なからず「忍者への憧れ」を持っているのではないだろうか?という仮説をもとにしている。ボルダリングで使われる段級システムは武道への関連性を明示しているし、武道の総合的、実践的な使用法が忍術という見方をすれば、やはりクライミング・ボルダリングは忍術とどこかで関連しているのだろうと思う。

すらすらと壁を登るクライマーを見て「忍者みたい!」と思ったり、忍者に憧れてクライミングを始めた人も多いのではないだろうか?この「忍者への憧れ」というものが、強い日本人クライマーを作り上げるのに一役買っているように思う。それは、憧れのクライミングスタイルが「忍者のような」=「素早く、静かに、軽やかに登るスタイル」として認識されているような気がするからだ。要するには、非常に洗練されたクライミングスタイルが「憧れ」として、日本中のクライマーの深層心理にあるのではないかと考えているのだ。

ガチムチ海外クライマーのパワームーブ、「ウォ〜!!」とか「んぎゃ〜!!」とか叫んで上半身のパワーで無理矢理にでも止めるムーブよりも、「とぅっ!!」と軽やかに飛んでサッと登るスタイルに憧れるクライマーが多いと思う(勝手に思っている)のだ。ワールドカップなんか見ていても、上半身ガチムチの海外クライマーが苦戦したキャンパスムーブや、足ブラムーブを、細い日本人クライマーがいとも簡単に、軽やかにやってのけるところを見ていると、やはり日本人は全体的に非常に洗練された登り方をしているし、するように努力している(ここが重要な点)ように見えるのだ。

ということで、日本人には「憧れのクライミングスタイル=忍者のような」がどこかあるのではないかという仮説。

そして、過去記事で忍術とクライミング、ボルダリングの関連性に関して幾つか考察しています。お時間あれば覗いてみてください。

関連する過去記事
「クライミングは現代の修験道か?」
「忍術のすすめ|忍者返し攻略のヒント?!」
「印を切って指筋を鍛える|忍術:九字護身法」



仮説9:先人クライマーたちの功績

これは絶対に触れておかなければならないし、仮説ではなく実際に作用していることだと思う。1970、80年代以降日本のクライミング界を押し上げ、引率してきた先人クライマーたち(もちろん現在も活躍しているクライマーの方を含め)の活躍と功績。これが励みとなり、バネとなり現代の日本クライミング界が出来上がっている。

木下誠氏、末政正行氏、戸田直樹氏、近藤邦彦氏、加藤泰平氏、檜谷清氏、池田功氏、南場亨祐氏、森徹也氏、堀地清次氏、寺島由彦氏、杉野保氏、黒田薫氏、松島晃氏、吉田和正氏、平山ユージ氏、中貝 星子氏、中山芳郎氏、山野井泰史・妙子氏、保科雅則氏、堀地清次氏、室井由美子氏、大岩あき子氏、森正弘氏、戸田直樹氏、尾川とも子氏、小山田大氏、室井登喜男氏、草野俊達氏(順不同)などなど、そして、各地の岩場を開拓してきた地元クライマーの方々。名前を挙げればきりがないし、残念ながら私にはその知識も無いので網羅することはできないが、そういった人々のこれまでの功績があり、現代の日本人クライマーの活躍がある。これは決しては忘れてはならないことだ。

日本のフリークライミングの歴史に関してはこちらの論文をご参考に。

早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科 スポーツ科学専攻 スポーツ社会学研究領域
目次 容子さんによる修士論文(研究指導教員:宮内 孝知 教授)



以上、岩道が考える「なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?9つの仮説。」でした!あくまでも仮説なので、あしからず。



前回
までの内容。仮説1
〜5に関しては過去記事を御覧ください。

「なぜ強いクライマーに日本人が多いのか?9つの仮説。その① 前半」