外岩の初登とは何なのか?岩の哲学。




外岩で登っていると、ある時、ふと気づくのです。
「一体このライン(課題)は、誰が最初に登ったんだろう?」と。
有名な課題、あるいは高難度の課題であれば、少しインターネットで検索すれば初登者の名前が出てくるかもしれません。しかし、多くの課題は無名の、地元のクライマーによって初登され、それぞれのグレードが振り分けられていきます。

もともと、そこには岩がありました。
しかし、それは手つかずの岩で、苔も生えていれば、ランディングも悪い、そしてアプローチと呼ばれるような道などなく、森の中にひっそりと数万年、数千万年とそこにあったのです。

誰かがその岩を見つけ、「登れる」と確信し、地主と交渉し、岩を綺麗に磨いてコケや汚れを落とし、アプローチを整備してくれたのです。そして、自然の岩の形の中にラインを引いていきます。それは、クライマーと岩との対話です。
初登のクライマーが強ければ強いほど、様々なラインを岩の上に描くことができるでしょう。岩の形状に沿った素晴らしいラインを見いだすことができるかもしれません。

個人的には、一つの岩に一つのラインしか無いような、そんなシンプルな課題/岩が好きです。それは、自然の形を、クライミングを通して人間がなぞっている事が明確に読み解けるからです。自然と人類(あるいは身体)のスケールを重ね合わせ、そこにひとつのラインが生まれるのです。そこにクライマーの哲学を感じます。

初登者の身体サイズや実力によって、描けるラインは変わってきます。得意、不得意によっても変わってきます。グレードというのは、ひとつの尺度でしかありません。初登者と同じような身体サイズであれば、あなたにとって登り易くなるかもしれませんし、登りづらく(厳しく)なるかもしれません。初登者よりもリーチが長ければ、核心ムーブが簡単になるかもしれません。指が一回り小さければ、ホールドも保持しやすいかもしれません。グレードというのは、ひとつの尺度でしかありません、それは絶対ではありません。

外岩には、そんなグレードを超えたライン/課題が存在します。それは、人のエゴが作り出した課題ではなく、自然が作り出したラインだから美しいのです。巨大な岩に出来た、ダイク、クラック、綺麗に散らばったカチホールド、それらの自然の形状をなぞって作られたライン/課題に惹かれます。

どこの岩場でも「チッピング」問題があります。「チッピング」とは、登っている途中にホールドが欠けてしまったのではなく、意図的に、人工的にホールドを加工し、登りやすく(あるいは登り辛く)加工してしまうことを指します。それは人間のエゴが作りだす、恐ろしい、おぞましい行為です。「この課題を登れたことにしたい」「あいつは登れたのに、なんで俺は登れないんだ」「俺は指が太いから保持できないだけなんだ」そういった人間のエゴが、自然本来が持っていた形状を崩し、人工的なつまらない課題に変えてしまいます。

そんなクライマーに言いたい。
「あなたは一度でも、初登したことがありますか?」
初登というのは、強くなければやってはいけないものではありません。むしろ、強くないからこそ「初登」をするべきだと思うのです。

それは決して簡単なラインを初登するというわけではありません。自分の限界を打ち破ってくれるようなラインを、岩を探し出すのです。そして、そこに自分なりのラインを描いてみましょう。

すでにたくさん開拓されているエリアでも、空いているラインはきっとどこかにあります。そんなところを探して「初登」を目指してみましょう。そうすればきっと「チッピング」なんかすることに何の意味もないことに気づくでしょう。

ジムで鍛えた実力試しに外岩で登るのも良いでしょう。グレードを追い求めて、どんどんと押し上げてゆくのも良いでしょう。でも、どこかで立ち止まって、本当の岩との対話をしてみませんか?

「ホールドは確かにある。でも、今の自分に登れるのか分からない」
「上まで登った先に、マントルを返せるヒールドがあるのかすら分からない」
「一体どれくらいのグレードなのかすら分からない」

そこには、誰かに登られて、すでにグレードが決定した課題を登るのとはまた違った、「未知への冒険」が待っています。何日もかけてトライしたのに、いざムーブが見つかると自分の考えていたグレードの3つくらい下だった。そんなこともざらにあります。それでも、時間をかけて作り上げたラインは愛おしく、そして、いつまでもそこに在ることでしょう。

そう、初登という「未知への冒険」に、あなたも少し参加してみませんか?今までとは全く違ったクライミングの世界が見えてくることでしょう。それが岩道の入り口なのです。



(ただし、それぞれの岩場にルールがあるので、岩場のルールを守りましょう。また、未開拓のエリアを勝手に登るのは絶対ダメです。多くの岩場は私有地です。地権者との交渉が必要です)