「那由多 V16/6段ー」のチッピング問題に関して考える

先日、2017年4月に下呂・中山七里で小山田大氏が初登した国内最難関の「那由多 V16/6段ー」が、何者かによってチッピングされたというニュースが駆け巡った。課題は”涅槃那”五段と”プレセム”五段ー(どちらも小山田初登)をリンクする全27手で、国内最難関課題として知られている。未だ第二登は報告されていない。


小山田大氏のフェースブックによると、「あうん」「アンクルサム」「プレセム」「那由多」「涅槃奈」と同岩にある複数の課題(ラインは多くが被る)周辺のホールドが、バールのようなものによって剥がされているのが見つかったということだった。ハンマーで叩かれたような形跡はなく、「ホールドを剥がした」というようなチッピングの方法だという。そして、剥がした後に課題を触っているチョーク跡も見られたようだ。


実はこの問題、私自身も以前ブログで書こうかと思ったことがあった。しかし、国内最難関の「那由多 V16/6段ー」のことを無暗に書いてしまえば反響が大きすぎるかと躊躇ってしまった...あの時、書いておけば、もしかしたら今回のチッピングは防げたのかもしれない...と思うと、残念でならない。


というのも、私が下呂・中山七里のワールドロックを訪れたのは今年の3月18日。少し暑くなってきたので、涼しいところを目指して下呂に初めて立ち寄ったのだった。ネット上ではトポを見つけることが出来ず、Youtubeで登られている動画の背景に映った橋をGoogleMap上で探し、岩場にたどり着いたのを覚えている。その時に「那由多 V16/6段ー」の写真を記念に取っておこうと思った。そして、異様な光景を目にしたのだ。

課題のスタートから中間部に向かって、大量の黄色みがかった塗料のようなものが吹きかけられていたのだ。パッと見、ものすごい量のチョークを吹きかけたか、こぼしたのかと思ったが、近寄ってみるとそれは明らかに別の「塗料?」のようなものだった。触った感じ、その塗料はそれ自体で立体的に固形化しており、明らかにチョークとは別のものだった。建物の補修とかで使用されるような、塗料それ自体で固形化する「隙間スプレー」あるいは「シリコンスプレー」のようなものではないかと思った。



(写真は全て2018年3月18日の午後4時頃)

しかし、下呂に来たのが初めてだったということもあり、また川の横だったこともあり「もしかして、そういう岩の染み出しなのか?」とか「鍾乳洞のように岩の成分が吹き出したもの?」などと別の可能性が頭をよぎった。しかし、足元をみると、明らかに人工的に吹き付けられたであろう跡が残っており、その時ハッと「新手のチッピング?」という考えが浮かんだ。このことをブログで書こうかと考えたが、先にも書いたように国内最難関の「那由多 V16/6段ー」のことを無暗に書いてしまえば反響が大きすぎるかと躊躇ってしまった。あの時、少しでも書いておけば、今回ほどのチッピングは防げたのではないかと残念でならない。









当時、ホールド自体の「欠け」はなかったのではないかと思う。私は「那由多 」をトライできるほどの実力もなければ初登映像すら見ていなかったわけだが、「明らかにホールドが複数箇所欠けている」というような印象はなかった。あまりに大量の塗料が吹き付けられていたので、見逃したのかもしれないが、その時の「チッピング」は塗料の吹き付けのみだったように思う。
「その特殊な塗料によって、岩の染み出しを抑えようとしているのかな?」というような印象を受けた。








その数ヶ月前に豊田でも同じようなことがあった。私の知っている限りでは、古美山の課題のいくつか(小便小僧、縄文ハングの石器?)が、大量のチョーク、ティックマークのようなもので覆われていたという事件である。これは、一見するとチョークに見えるのだが、こすってもなかなか取れず、またチョークとは違った「塗料」独特の滑りやすさがあったように思える。工事現場用の「ろう石」ではないかと言われているらしい。どちらも私の目で確認しているが、それは、私が下呂でみた「塗料」とは全く別の性質のものだった。そのため、この2件に関連性があるかは分からないが、中部地区の「外岩」が何者かによって荒らされているというのは明らかだ。そして、それがクライマーによる「チッピング」なのか、はたまた「嫌がらせ」なのかは分からない。しかし、国内最難関の課題が消失してしまったことは事実なのである。



今回の「那由多 V16/6段ー」のチッピングに関しては、目撃者という立場から、ここに情報を記しておきたい。こういった情報戦でのみ、外岩のチッピングは防ぐことができるのかもしれない。

人間の弱さ、傲慢さによって起こされる「チッピング」がクライミング界からいつかなくなるように、外岩クライミングを武道と同じように精神修行の道「岩道」として認識されるような活動を行っていきたい。



【追記/20180630】

なぜ「那由多 V16/6段ー」がチッピングされたのか考え直してみた。

まず思いつくのが「アクセス問題等によるクライマーへの嫌がらせ」。しかし、この場合、なぜ「那由多 V16/6段ー」周辺のホールドだけがチッピングされているのか?という疑問が残る。嫌がらせならば、複数の課題(岩全体)がチッピングされてもおかしくない。(実際に別ラインの「あうん」「アンクルサム」もかけているが...)

そして、チッピングするなら最初から壊すのが楽?なのに、なぜ最初の方は塗料のようなものでチッピングらしい行為を行って来たのか?という疑問も浮かぶ。

もし小山田氏への個人的な嫌がらせだとしたら、最初の方のチッピングが塗料だった点に違和感を感じる。そして、ランディングにガラス片?が撒かれていたのも、すでに登っている小山田氏への嫌がらせなら疑問が残る。

これらの点を総合して考えると、岩道なりに想像されるチッピングの理由/過程は以下のようなものになる。

1)チッピング主は、かなり強いクライマーであり、
  実際に「那由多 V16/6段ー」、あるいは周辺の
  課題をトライしていた可能性がある。

2)初期のチッピングは、同様にトライしていた
  別のクライマーに向けての「嫌がらせ」だったのでは?

3)今回のチッピング(破壊)は、
  課題を登りやすくしたわけではなく、別のクライマー
  がかなり惜しいところまでムーブを繋げており、
  その再登の可能性を無くすために破壊したのでは?
  (要するには、クライマーのクライマーに対する
  嫌がらせ?)

というものだ。これは想像だけでしかないが、かなり強いクライマーが複数人「那由多 V16/6段ー」の第二登を目指しており、そのうちの誰かがかなり惜しいところまで迫っていた。そして、その可能性を無くすために犯人がチッピングを行ったのではないかという仮説である。そうなると、5段/6段をトライできる、かなり強いクライマー周辺の人物なのではないかという犯人像が浮かんでくる。

チッピングの犯人探しほど悲しいことはないが、これが現実なのである。グレードを追い求めるようなクライミングが世界中で挑戦される、その中で生まれたチッピングなのかもしれない。

(以上、あくまで岩道なりの仮説です)




【追記/20180706】


その後、小山田氏のブログにチッピングのより詳細な内容が掲載されました。小山田氏によると、 


「あうん」「アンクルサム」を除き他の課題に関しては「那由多」含め、オリジナルのホールドは破壊されていません。簡単に言うと新たにホールドが増やされたという感じです。「那由多」「涅槃奈」に関しては新たに出現したホールドを限定すればほぼオリジナルの状態で登る事は出来ます。

「あうん」「アンクルサム」以外の課題に関してはオリジナルホールドは元のまま残っており、チッピングによって元々なかったホールドが作られているという。となると、「那由多」「涅槃奈」の既成ホールド自体はチッピングされていないということになる(実際には1つだけ欠けたものがあるが、重要なものでは無いそう)。

ということは、上記に記載した岩道の仮説は成立しないかもしれない(ということで横線が入っています)。むしろ4/5段あたりを登れる強いクライマーが、いくらトライしても登れないから「課題を簡単にして登ってやろう」というような意思でチッピングしたのかもしれない。

ただ、そうなると初期の塗料によるチッピングは一体なんだったのだろうか?本当に課題を乾燥させるため、あるいは本来保持できない部分を保持できるようにするために特殊な塗料を使用していたのだろうか?

この理由で一点納得がいくのは、下の写真の岩に残る不思議な塗料の輪郭だ。最初、この輪郭はなんだろうかと疑問だったが、これは「水たまりの輪郭」なのでは無いかと思う。となると、塗料を吹き付けたクライマーはコンディションの悪い日に現地を訪れており、多少の染み出しやヌメリがあったのかもしれない。(そうでなくても、下呂の磨かれた川石はコンディションによって保持感が大きく変わりそうだ)



このチッピング犯の目指しているクライミングとは、一体なんなのだろうか?そんな課題を外岩で登っても、ジムの課題と何も変わらないと思うのだが?

「ジムで勝手にやってくれ、外岩にくるな」と声を大にして言いたい。