子供はなぜクライミングに強いのか?そこから学ぶこと。



いま、世界中で子供たちがクライミングに熱狂している。
そして、驚くほどに子供達は強い。こんなにも若手(子供?)の活躍しているスポーツはそうそうないだろう。子供たちが世界中の高難度課題を再登し、その最少年齢を大幅に更新(引下げ)している。いったいなぜ、彼ら/彼女らはそんなにも強いのだろうか?以前から頭の片隅でモヤモヤとしていた疑問を少し掘り下げてみたい。









その衝撃を受けたのは、紛れもなく白石阿島ちゃん/さんの登場だった。ニューヨークで育った日系アメリカ人の白石阿島ちゃんは、2014年、南アフリカのロックランズで若干13才という若さでGolden Shadow(V14/8b+/五段)の再登に成功した。このニュースはすぐさま世界中をかけ巡った。あんなにも小さな子供(当時)が、なぜそんなにも高難度の課題を登る事ができるのか、不思議で仕方なかった。
そして同じ年、フランスの ブルック・ラバウトゥー/Brooke Raboutouが若干11歳で5.14b(8c)のレッドポイントに成功している。日本では今年、第13回ボルダリング・ジャパンカップで14歳の森 秋彩さんが2位に、そしてスポーツクライミング・リード日本選手権で優勝を果たした。


これらのニュースを見る度に、「なぜ、こんなにも子供たちは強いのか?」という疑問がふつふつと沸いてきた。そして11歳から14歳という年齢層も気になる。それはもしかしたら「大人と子供の身体的な差」から生れるものではないだろうか。そんな仮説が頭の中に浮かんでいた。おそらく、多くの大人のクライマー がどこかで感じているだろう、それらの仮説を少しだけ具体的に考えてみたい。



仮説1)

筋肉量や身長に対して、体重が極端に軽いのではないか?


仮説2)

指のサイズが大人に対して極端に小さいので、極小カチがガバカチになるのではないか?


仮説3)

身長が極端に低い事によって、ムーブの中に身体が入り込み、核心ムーブが簡単になるのではないか?



以上、3つの仮説を順に、それぞれ検証して見たい。




仮説1)

筋肉量や身長に対して、体重が極端に軽いのではないか?


まずは、11〜14歳という年齢に関して補足をしたい。人間の成長過程において、だいたい10歳までに骨格がしっかりと形成され、土踏まずが完成する。要するには、あらゆる身体の部分が初期段階ではあるものの、しっかりと形成されるのが10歳以降という事になる。その後、このまま成長曲線は17歳ころまで右肩上がりに続く。

日本人の14歳男子の平均身長は164センチ、平均体重は55キロ。14歳女子は155センチ、平均体重は50キロ。

この数字を聞いて、みなさん何か感じませんか?そう、14歳時ですでに、ほどんど大人と同様の体形まで成長していることがわかります。参考までに成人20歳の平均を出したいと思います。

日本人の20歳男子の平均身長は170センチ、平均体重は66キロ。20歳女子は157センチ、平均体重は53キロ。

ここから、それぞれのBMI(身長から見た体重の割合)を算出してみます。

平均的な日本人の14歳男子はBMI:20.45、20歳男子はBMI:22.84です。

平均的な日本人の14歳女子はBMI:20.81、20歳女子はBMI:21.50です。

ん、それほどBMIの数値に大きな差は無いように感じます。
では、10歳時のBMIも見てみましょう。

平均的な日本人の10歳男子は139センチ、35キロ。BMIは18.1。10歳女子は140センチ、平均体重は35キロ。BMIは17.9。

驚く事に、20歳時のBMIと比べると男女共に4.5程度の差があります。身長を20歳時に換算し、BMI値に照らし合わせて見ると、男子で身長170cm体重52キロ、女子で身長157センチ、体重44キロというかなり痩せ型体型になります。そして、これが平均的なBMI数値となる訳です。(ということは、もっと痩せてる子も存在することになる)


10歳から14歳にかけて、平均的に8センチの身長の伸びがあります。ということは、この成長期に「するすると身長は伸び、それでも体重はあまり増えない」という低体重状態の子供が多く存在する事は容易に想像できます。あー、クラスでも一人は居たなあと想像できるのでは無いでしょうか?夏休みがあけたら急に背だけが伸びてたあの子です。


以上、仮説1)筋肉量や身長に対して、体重が極端に軽いのではないか?は、平均BMI数値から見ると、なんとなく立証できるのでは無いでしょうか?

要するには、大人と子供の境界で、「身長は大人並みなのに、極度に体重が軽い」状態が作り出されるのが10−14歳という時期であり、クライミングにとっては非常に優位なのです。

仮説2)

指のサイズが大人に対して極端に小さいので、極小カチがガバカチになるのではないか?





成人男性の平均的な手の長さは19cm、女性で17.3cmです。
これに比べ、10歳時の手の長さは15cm、中学生で17cm程度と言われています。たった2cmの差ですが、カチホールドの保持感には決定的な差が出てくると思います。そして、これはあくまで平均値ですので、より小さい手の子も出てくるでしょう。高難度課題で多出する極悪のカチホールドの保持感が大人のそれとは全く違ったものになるのは容易に想像できます。




仮説3)


身長が極端に低い事によって、ムーブの中に身体が入り込み、核心ムーブが簡単になるのではないか?



これは、私自身の経験からお話します。岩道は日本では平均的な身長です。海外で多くのジム、岩場で登った経験がありますが、海外のジム・岩場では非常に登りやすく感じることが多かったです。その1つの理由が、「身体がムーブの中に入るから」というものです。平均身長180cmくらいのヨーロッパのジムでは、170cmくらいの体だと、設定された課題の中で、身体の重心が非常にとりやすくなった。また、高難度課題にありがちな強傾斜壁+狭いホールディング+デッドという3拍子も、この「少し小さい身体」によって、非常に優位に働いている気がしました。確かに、ランジや、モルフォムーブと呼ばれるリーチーな課題は難しいですが。。。しかし、「少し小さい」ことにより、グレード感も優しく感じることが多く、岩場でもそれなりの成果をあげることができた。


日本のジムや岩場でも、体格が大きくてリーチのある人よりも、少し小さめの方のほうが、強いクライマーが多い気がしています(私感ですが)。設定された課題やグレードに対して、「少し小さい」くらいが、核心ムーブの中に身体が入り(壁にひっつきやすい)、少し簡単になる気がしています。実際に、W杯などで日本人の活躍が目覚しいのも、この「少し小さい」というのが一つのポイントになっているのではないかと思います(この辺りは難しくて、単に日本人が圧倒的に強いだけかも知れませんが)

本題に戻って、「子供がなぜ強いのか」の部分ですが、同様のことがやはり子供のクライマーにはおこっている気がします。確かにリーチ的に難しいものもあると思いますが、大人の平均よりも10cmほど身長・リーチが短いことによって大人用に設定された課題の中では核心ムーブの中に身体が入り(壁にひっつきやすく)、少し簡単になっていると思います。

クライミングは少し小さいくらいがちょうど良いのです。


そして、ほとんどの岩場の課題は「大人」たちによって開拓されています。10−14歳にちょうど「少し小さくて、だいぶ軽い」時期に差し掛かります。そうすると、子供達自身も予想しなかったパフォーマンスを発揮できるのだと思います。


まとめ



しかし、クライミングをする阿島ちゃんの映像(子供の頃)を見ていると、以上の仮説をまるっと忘れさせてくれるようなシーンに出会った。確かに登りが綺麗で、柔軟性に優れている。「少し小さくてだいぶ軽い」身体がムーブの中に入っているし、カチの保持感も全然違いそうだ。しかし、圧倒的にリーチが短く、他の大人のようなダイナミックなムーブがこなせ無い。何度も何度もトライするが微妙に届かずに落ちてしまう。。。

そして、彼女は泣いたのだ。
登れない事に悔しくて、泣いたのだ。

私はその映像を見た時、ハッとした。
果たして、自分のクライミング人生を振り返って見て「課題が登れなくて泣いた事」があっただろうか?登れなくて、ムーブがこなせなくて、その悔しさを噛み締めたことはあった。でも、それは泣ける程の悔しさでは無かったし、「そんなことで泣いてどうするんだ」という大人な考えがどこかにあった。

でも子供たちは、そこにある課題に直面し、悔しくて、不甲斐なくて、ふっと泣くのだ。それくらい、「登る事は子供たちにとって全て」となっているのだ。


この「何物にも変えられない悔しさ」が、子どもたちの強さの本当の理由なのではないかと思った。